
建設業許可を取得した後も、事業者には法令に基づいた各種の届出義務が課されます。その中でも、見落としがちな義務の一つが「変更届」の提出です。建設業許可を取得した後、会社の代表者が変更になった、資本金が増減した、役員が交代した、営業所を移転した――こうした場合には、所定の期間内に所轄の行政庁に変更届を提出しなければなりません。
この手続きは、事業者の適格性を継続的に審査するための制度であり、提出を怠ると許可の更新ができない、あるいは虚偽申請とみなされ罰則を受けるおそれもある重要な届け出です。
本記事では、東京都江東区および沖縄県那覇市で建設業を営む方々に向けて、変更届の基本的な考え方から、対象となる変更内容、提出期限、必要書類、実務上の注意点までを網羅的に解説します。
1. 「変更届」とは?その目的と法的根拠
建設業許可を取得した後も、許可要件(例えば経営業務の管理責任者、専任技術者、財産的基礎など)を継続的に満たしているかを行政が監督する必要があります。そのために、許可申請時に提出した内容に変更が生じた場合には、遅滞なく所定の様式に基づいて届出を行う義務が課されているのです。
法的根拠
- 建設業法第11条第1項
- 建設業法施行規則第9条
変更届の提出は、建設業法に基づく「継続的な許可条件の監督・確認」という制度設計の一環であり、行政側が事業者の実態を正確に把握するために必要不可欠なものです。
2. 提出が必要な主な変更事項
変更届が必要となる代表的な項目は、以下の通りです。
(1)商号または名称の変更
法人名や個人名(屋号)が変わった場合。
(2)営業所の名称・所在地の変更
許可を受けた営業所を移転した場合、または名称を変更した場合。
(3)役員・令和2年法改正後の「重要な使用人」の変更
法人役員の就任・退任、支店長・支配人の異動など。
(4)経営業務の管理責任者の変更
経営管理を行う責任者が変更になった場合。
(5)専任技術者の変更
各営業所に配置されている専任技術者の交代や資格の変更など。
(6)資本金額の変更
増資または減資があった場合。
(7)建設業法に関わる法令違反等があった場合
営業停止処分を受けた、刑罰を受けたなど。
これらは建設業許可の根幹にかかわる情報であるため、いずれも漏れなく届け出る必要があります。
3. 提出期限と遅延した場合のリスク
変更内容によって提出期限が異なります。主な区分は以下の通りです。
(1)変更後 30日以内に届出が必要 なもの
- 商号または名称の変更
- 営業所の所在地の変更
- 役員の変更(就任・退任)
- 経営業務の管理責任者の変更
- 専任技術者の変更
(2)変更後 2週間以内に届出が必要 なもの
- 欠格要件に該当した場合(例:破産、刑事処分等)
遅延した場合のリスク
- 許可更新ができなくなる
- 経営事項審査(経審)が受けられない
- 行政指導・是正指導の対象になる
- 最悪の場合、営業停止や許可取消の可能性も
行政庁は、提出が遅れたことだけで直ちに許可取消を行うわけではありませんが、複数回の指摘があったり、虚偽の記載がある場合は処分に発展することもあります。
4. 提出先と方法
変更届の提出先は、許可の種類に応じて異なります。
- 都道府県知事許可:各都道府県の建設業許可窓口
(東京都江東区の事業者の場合は、東京都庁 都市整備局 建設業課) - 国土交通大臣許可:地方整備局(関東地方整備局など)、沖縄総合事務局
提出方法は、窓口持参が原則ですが、一部の都道府県では郵送や電子申請にも対応しています。東京都では電子申請(jGrants)にも対応し始めていますので、希望される場合は事前にシステム登録が必要です。
5. 提出書類の内容
変更届では、変更項目に応じた様式(第六号書式)と、その裏付けとなる資料が必要になります。例えば以下のような添付書類が求められます。
よくある提出書類の例
変更内容 | 添付書類 |
商号・名称の変更 | 登記事項証明書(履歴事項全部証明書) |
営業所の変更 | 事務所写真、賃貸契約書などの使用権限確認資料 |
役員の変更 | 登記事項証明書、経営業務管理責任者の確認資料 |
専任技術者の変更 | 資格証明書、実務経験証明書、雇用契約書 等 |
資本金の変更 | 登記事項証明書、資本金増減の経緯資料 等 |
変更内容によっては、法的要件を満たしていることを証明するために、詳細な資料の提出を求められる場合があります。事前に行政庁へ相談するか、専門家の助言を得ることが望ましいです。
6. 実務での注意点とアドバイス
(1)役員変更時は「経営業務の管理責任者」資格も確認を
役員の退任・就任があった場合、経営業務の管理責任者の要件(5年以上の経営経験等)を満たしているかを必ず確認しましょう。これを満たさないと、建設業許可自体が無効となるリスクがあります。
(2)専任技術者の交代では資格証明と雇用関係を明確に
技術者が変更となる場合、その資格要件(実務経験、国家資格など)と、当該営業所に「常勤」で配置されていることを裏付ける資料(雇用契約書、健康保険証等)を揃える必要があります。
(3)営業所の変更では「営業実態」があるかがポイント
単なる登記上の住所変更ではなく、建設業としての実態(見積、契約、入札等の業務)が行われていることを示す必要があります。名ばかりの営業所は、変更届を受理されないこともあります。
7. 東京都江東区・沖縄県那覇市における実務傾向
東京都江東区の傾向
都内では法人の再編や事業拡大による営業所の移転、役員交代などが頻繁に発生しています。そのため、変更届の提出も煩雑になりやすい状況です。電子申請への対応も進んでいますが、提出ミスによる差し戻しも多いため、事前の確認が重要です。
沖縄県那覇市の傾向
中小企業が多く、変更届の提出が後回しにされがちですが、沖縄県庁では指導が年々厳しくなっています。提出漏れがあると、許可更新時に資料不備で足止めを受けることもあります。行政書士に定期的に相談し、スケジュール管理を行うことが肝心です。
8. まとめ:変更届の管理は「許可維持」のための基本
建設業許可は、一度取得すれば終わりではありません。むしろ取得後の「維持管理」が重要であり、変更届の提出はその中心となる業務のひとつです。
提出期限を守り、正確な内容で届け出を行うことは、許可の継続だけでなく、公共工事への参入や取引先からの信用維持にもつながります。社内での情報共有とスケジュール管理、そして必要に応じた専門家の活用によって、リスクを最小限に抑えた経営が実現できます。
今後の法改正や提出方法の変更にも柔軟に対応できるよう、毎年の届出スケジュールや、役員・営業所の変更を管理する体制を整えておくことが、建設業者としての安定経営につながるでしょう。