
~相続トラブルを防ぐカギとなる重要な存在~
遺言書は、被相続人が自分の財産を誰に、どのように遺すかを法的に明らかにする大切な書類です。しかし、いくら内容が整った遺言書があっても、それを確実に実行してくれる人がいなければ、遺言の内容が守られなかったり、相続人同士のトラブルが発生したりするおそれがあります。
こうした事態を防ぐために存在するのが「遺言執行者(いごんしっこうしゃ)」です。本記事では、東京都江東区や沖縄県那覇市の皆さまに向けて、遺言執行者の具体的な役割と指定の方法、また指定時の注意点について、わかりやすく解説いたします。
1.遺言執行者とは?
遺言執行者とは、遺言の内容を実際に執行(実現)するために選ばれる人物または法人です。たとえば、遺言書に「長男には自宅を、次男には預金を、親友には100万円を」といった内容が記載されていた場合、それを現実に形にするのが遺言執行者の役割です。
●法的根拠
遺言執行者に関する規定は民法に定められており、民法第1006条に「遺言の執行は、遺言執行者がこれをする」と明記されています。
遺言執行者は、相続人や利害関係人とは独立した立場で、遺言の実現を公正に進める責任を負います。
2.遺言執行者の主な役割
遺言執行者の職務は、遺言の内容や財産の種類によって異なりますが、主な業務には以下のようなものがあります。
●遺言内容の通知
相続人や受遺者に対して、「遺言にこう書かれている」という内容を知らせます。
●相続財産の調査・目録作成
遺言執行者は、被相続人の遺産の内容を調査し、財産目録を作成して相続人に開示します。
●遺産の名義変更や引き渡し
不動産の名義変更登記や、預金の解約・分配、株式の名義書換など、遺言内容に沿った手続きを実行します。
●特定の相続手続き
以下のような場面では、遺言執行者がいなければ実行できません。
- 非嫡出子の認知
- 相続人の廃除・取消し
- 財産の寄付(公益法人への遺贈など)
これらは相続人が勝手に実行できる内容ではなく、遺言執行者が必要となります。
3.遺言執行者の指定方法
遺言執行者は、以下のいずれかの方法で指定されます。
●遺言書の中で指定する
もっとも一般的な方法です。被相続人自身が、遺言書の中で「〇〇を遺言執行者とする」と明記します。
記載例(公正証書遺言の場合):
「私は、行政書士〇〇〇〇を本遺言の遺言執行者として指定する。」
なお、公正証書遺言、自筆証書遺言どちらでも指定は可能ですが、法的効力が確実なのは公正証書遺言です。
●家庭裁判所に選任してもらう
遺言書に執行者が指定されていない、または指定された人が辞退・死亡していた場合には、相続人や利害関係人が家庭裁判所に選任を申し立てることができます。
4.遺言執行者に誰を選ぶべきか?
遺言執行者には、法律上の制限は特になく、未成年者と破産者を除けば誰でも就任できます。
しかし、以下の観点から慎重に選ぶことが重要です。
●相続人を遺言執行者にするのは避けるべき?
民法上は相続人が遺言執行者になることも可能ですが、利害関係が絡む場合はトラブルに発展する可能性があります。たとえば、特定の相続人だけが多くの財産を受け取るような遺言の場合、その相続人が執行者であると他の相続人から不満が出ることもあります。
●行政書士・弁護士など専門家を指定するメリット
- 公正・中立な立場で執行される
- 不動産登記や預金解約などの煩雑な手続きも任せられる
- 相続人間の感情的対立を避けやすくなる
特に江東区や那覇市のように、都市部で不動産や複数の金融資産が絡む相続では、行政書士や弁護士などの専門家を遺言執行者に指定することが非常に有効です。
5.遺言執行者の報酬と義務
遺言執行者には、無償でも可能ですが、通常は報酬が支払われます。報酬額は遺言書に明記されていればその通りに、明記されていなければ相続人との協議、または家庭裁判所で決定されます。
●遺言執行者の義務
- 誠実に職務を行う義務(善管注意義務)
- 相続人への報告義務
- 不正があった場合の損害賠償責任
遺言執行者は、あくまで中立で誠実な執行を求められるため、不正な処理をすると責任を問われる可能性があります。
6.遺言執行者に関する注意点
●指定された人が辞退することもある
遺言執行者に指定された人が、手続きの煩雑さなどを理由に辞退することは珍しくありません。指定時には、あらかじめ本人の同意を得ておくことが望ましいです。
●複数名を指定する場合は明確な指示が必要
共同で執行する場合、意見の食い違いが生じるとスムーズな執行が妨げられます。「〇〇を主たる執行者とする」などの優先順位を決めておくとよいでしょう。
●執行者を選ばないと遺言の実行が困難になることも
特定の遺言内容(認知、廃除、寄付など)は、執行者がいないと法的に効力を発揮できないため、内容によっては必ず遺言執行者を指定しておく必要があります。
7.まとめ
遺言執行者は、被相続人の「最後の意思」を確実に実現するための極めて重要な存在です。相続人同士のトラブルを防ぎ、スムーズな財産分配を行うためにも、遺言書を作成する際には遺言執行者の指定を積極的に検討すべきです。
最後にポイントを整理します。
- 遺言執行者は、遺言内容の実現を担う法律上の権限者
- 自筆・公正証書いずれの遺言でも指定可能
- 専門家を指定することで手続きが円滑に進む
- 執行者の義務と責任を踏まえた選定が重要
- 特定の内容には必ず執行者が必要