建設業許可の財務諸表作成における実務の注意点と修正例について

建設業許可を維持するためには、毎事業年度終了後4ヶ月以内に「決算変更届」を提出する必要があります。その際に添付する「建設業財務諸表」は、単なる決算書の提出ではなく、建設業法に基づく専用様式での作成が求められる、極めて重要な書類です。

本記事では、前回ご紹介した建設業財務諸表の基本的な構成と目的を踏まえた上で、実務上でよく見られる作成ミスや注意点、さらに実際の修正例を交えて詳しくご説明します。東京都江東区や沖縄県那覇市の事業者様にとっても、現場で役立つ内容となっております。

目次

1. 建設業財務諸表の作成に必要な書類と基本構成

建設業財務諸表は以下の様式で構成されています。提出時には、これらを所定の様式に沿って作成し、決算変更届に添付します。

  • 貸借対照表(建設業様式)
  • 損益計算書(建設業様式)
  • 完成工事原価報告書
  • 株主資本等変動計算書(該当する法人のみ)
  • 注記表(任意だが内容を明示するため有用)

作成方法は原則として「建設業会計の基準」に基づく必要があり、税務会計とは分類方法・勘定科目・利益計算のロジックが異なる点に注意が必要です。

2. 実務でよくある誤りとそのリスク

(1)建設業特有の勘定科目が未使用

税務会計の決算書を流用し、「売上」「仕入」「未収入金」「未払金」などの一般的な科目しか記載していない例が散見されます。

リスク:行政側から「建設業様式で再提出を」と指導を受け、提出が遅れる。

修正例

  • 「売上」→「完成工事高」
  • 「仕入」→「完成工事原価」
  • 「未収入金」→「工事未収入金」
  • 「前受金」→「工事前受金」

これらの変換を行い、建設業用の財務諸表として再構成する必要があります。

(2)未成工事支出金と完成工事原価の区分が曖昧

建設業では、期末時点で未完成の工事にかかった費用は「未成工事支出金」として処理し、完成後に「完成工事原価」として認識します。

リスク:損益計算書の内容が正確に反映されず、経審での評価点が低下する。

修正例

仮に期末に未完成の工事に対して200万円分の支出があった場合、完成工事原価に含めず、貸借対照表の資産の部「未成工事支出金」に計上します。

(3)工事進行基準と工事完成基準の混同

建設業では収益の認識方法として、以下の2つの基準があります。

  • 工事完成基準:工事が完了した時点で売上・原価を計上
  • 工事進行基準:工事の進捗に応じて売上・原価を按分して計上

注意点:どちらの基準を採用しているかを明示し、その方法に従って財務諸表を作成する必要があります。

リスク:基準の記載が不明確な場合や、整合性が取れていない場合、経営事項審査や許可審査で減点の対象となることがあります。

(4)利益の処理方法が曖昧

株式会社の場合、当期純利益の処分(利益剰余金への繰入、配当など)について、利益処分案または株主資本等変動計算書を添付する必要があります。

リスク:添付書類の不備により、決算変更届が受理されない。

修正例
当期純利益が100万円の場合、以下のように記載。

  • 利益準備金:10万円
  • 繰越利益剰余金:90万円

3. 実務上の具体的な作成手順(チェックリスト)

建設業財務諸表の作成に際しては、次の流れで進めると正確性が向上します。

ステップ1:税務決算書を元に数値の基礎を整える

  • 税理士が作成した決算書から、各勘定科目の数値を確認
  • 工事台帳や原価台帳から、工事ごとの進捗状況を確認

ステップ2:建設業様式に変換する

  • 税務会計の科目を建設業会計に置き換え
  • 未成工事支出金や工事未収入金などを加算・修正

ステップ3:完成工事原価報告書を作成

  • 材料費・労務費・外注費・共通費などに分類
  • 工事ごとの原価配賦の整合性をチェック

ステップ4:利益処分案等の附属資料を整える

  • 当期利益の処分を明記
  • 必要に応じて株主資本等変動計算書を作成

ステップ5:整合性チェックと提出準備

  • 貸借対照表と損益計算書の整合性
  • 数値が一致しているか、前年度との比較で著しい変動がないかを確認

4. 東京都江東区・沖縄県那覇市における提出上の注意点

両地域では、それぞれ行政の対応方針に違いがありますが、共通して以下のような点が求められます。

  • 建設業財務諸表は原則として最新版の様式に準拠すること
  • A4サイズ・左綴じで製本、表紙に「決算変更届」と記載
  • 提出時に控えへの収受印を希望する場合は控えも持参
  • 電子申請に対応する場合でも、様式不備は差し戻しの可能性あり

5. 修正事例:提出後に誤りが発覚した場合の対応

ケース1:数値の入力ミス

:「完成工事高」を3,500万円とすべきところ、誤って35,000万円と入力してしまった。

対応:速やかに「訂正届出書」を添付し、修正済みの財務諸表一式を再提出。

ケース2:勘定科目の誤分類

:「前受金」を「短期借入金」として処理してしまった。

対応:正しい科目に修正し、貸借対照表・損益計算書・原価報告書のすべてに整合性を持たせて再提出。

6. まとめ 財務諸表の正確性が建設業許可の信頼を支える

建設業財務諸表は、単なる事務作業ではなく、事業の信頼性と安定性を行政に示す極めて重要な情報です。特に、税務決算書との違いを意識し、建設業固有の様式・勘定科目に沿って作成する必要があります。

また、ミスや不備がある場合は、速やかな修正・再提出を行い、許可の維持や経営事項審査への影響を最小限に抑えましょう。

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