
建設業許可を取得するためには、営業所ごとに「常勤」の専任技術者を配置しなければなりません。また、経営業務管理責任者も基本的には会社に常勤している必要があります。この「常勤」という要件をどう証明するかは、申請実務において意外と見落とされがちな重要ポイントです。
今回は、健康保険証や源泉徴収票などを使って常勤性を証明する方法について、実務的な観点からわかりやすく解説します。
1. なぜ「常勤性」の証明が必要なのか?
建設業許可制度では、技術面・経営面の体制が適切であることが求められます。中でも専任技術者については、単に有資格者であるだけでなく、「営業所に常勤している」ことが明確でなければなりません。
「常勤性」は、建設業許可制度の土台ともいえる要件です。つまり、以下のようなことを防止するための仕組みです。
- 他社との掛け持ち(名義貸し)
- 実際には在籍していない架空の配置
- 遠隔地からの名ばかり在籍
このため、行政庁は書面で「常勤」を裏付ける客観資料の提出を求めています。
2. 常勤性を証明する代表的な書類
常勤性の証明方法は、申請者の立場(法人か個人か、代表取締役か従業員か)によって異なりますが、実務でよく用いられる書類は以下のとおりです。
書類名 | 主な役割 | 備考 |
健康保険証の写し | 社会保険の適用を通じて、勤務実態を示す | 「事業所名」が印字されている必要あり |
源泉徴収票の写し | 会社から給与を得ていることを証明 | 給与支払い主体の法人名が一致していること |
雇用契約書 | 雇用期間・勤務地・業務内容を明示 | 直筆の署名や捺印があるとより有効 |
出勤簿・タイムカード | 実際の出勤状況を記録 | 小規模事業者では提出を求められることも |
住民票の写し | 居住地と営業所が近接していることの補強資料 | 長距離通勤・在宅勤務などがないことの補足に使える |
3. 健康保険証で常勤性を証明するポイント
3-1. 健康保険証とは
健康保険証は、全国健康保険協会(協会けんぽ)や健康保険組合などが発行する被保険者証です。この保険証に**事業所の名称(会社名)**が記載されていれば、対象者がその会社に勤務していることを間接的に証明できます。
3-2. 有効な保険証の条件
- 保険者名(協会けんぽなど)が記載されている
- 会社名・事業所名が印字されている(手書き不可)
- 有効期限が切れていないもの
健康保険証はあくまで“補助的資料”とされる場合もあり、他の書類との併用が求められるケースが多いです。特に「代表取締役本人」の場合は、別の証明方法が必要になることもあります。
4. 源泉徴収票を活用する実務上の注意点
源泉徴収票は、給与支払者(会社)が労働者に対して所得税を源泉徴収したことを証明する書類です。
4-1. 有効な源泉徴収票の条件
- 支払者の氏名欄に会社名があること
- 支払金額が実態と合っていること
- 最新の事業年度(前年)分であること
行政庁としては「給与を受け取っている」=「実態のある勤務」があるとみなします。ただし、役員報酬しかない場合や、申請時期と源泉徴収票の期間が離れている場合には、追加の資料が求められることもあります。
5. 法人代表者の常勤性の証明方法
建設業許可では、法人の代表者が「経営業務管理責任者」や「専任技術者」を兼ねる場合もあります。このとき、他の法人の役員を兼務しているなどの事情があると「常勤しているとは言えない」とされるおそれもあります。
5-1. 代表者の証明に使える書類
- 法人の登記簿謄本(役職の明記)
- 健康保険の事業主届出書
- 月次の報酬台帳
- 実際の居所が営業所の近隣であることを示す住民票等
行政庁により求められる書類は異なりますが、複数の資料で常勤性を立証する姿勢が重要です。
6. よくあるトラブルと対処法
6-1. 健康保険証に事業所名が記載されていない
→ 協会けんぽや健保組合に依頼し、「事業所名入りの被保険者証」を再発行してもらいましょう。
6-2. 源泉徴収票が最新のものでない
→ 給与明細、賃金台帳、支払い証明書などで補完可能です。会社側で再発行してもらうことも検討してください。
6-3. 他の会社の役員を兼ねている
→ 勤務時間の大半を建設業の会社で過ごしていることを、勤務実態や給与の支払いなどで説明します。役員兼務については就業規則や役員会議事録で明示するのも有効です。
7. 東京都江東区・沖縄県那覇市での傾向と実務ポイント
東京都江東区
東京では事業者数も多く、行政庁も慎重な審査を行います。そのため、「健康保険証だけでは足りない」として、追加の資料(勤務表、給与明細、社保加入届など)の提出を求められることがよくあります。
沖縄県那覇市
那覇市を含む沖縄県では比較的柔軟な審査が行われる傾向もありますが、それでも源泉徴収票や雇用契約書の整備は不可欠です。また、同居家族経営が多いため「社内での勤務実態」を写真などで証明する工夫も求められます。
8. まとめ
「常勤性の証明」は、建設業許可申請における基礎中の基礎です。しかしその立証は簡単ではなく、適切な書類を複数組み合わせて提出することが求められます。
主なポイントは以下のとおりです。
- 健康保険証には事業所名が印字されていること
- 源泉徴収票で勤務の実態が確認できるようにする
- 必要に応じて出勤簿や給与台帳なども準備する
- 法人代表者は兼務状況に注意し、補足説明を加える