
建設業許可を取得するためには、一定の「経営業務の管理責任者(経管)」や「専任技術者」の要件を満たすことが必要です。その中でも経営業務の管理責任者に関しては、会社の経営に携わった経験が問われます。しかし、近年多くの企業で導入されている「執行役員制度」における経験が、建設業許可の要件を満たすかどうかは、少々判断が難しいケースがあります。
執行役員は、取締役や監査役のように会社法上の「役員」ではなく、商業登記簿(履歴事項全部証明書)にも記載されません。したがって、申請にあたりその経験をどのように証明するかが大きな課題となります。本記事では、沖縄県那覇市や東京都江東区で建設業許可を目指す事業者の方に向けて、執行役員としての経験証明のポイントや必要資料、実務上の注意点について詳しく解説していきます。
1 執行役員とは何か?~取締役との違い
まずは、執行役員の位置づけについて整理しておきましょう。
執行役員制度は、企業の経営意思決定と業務執行を分離する目的で導入されることが多い仕組みです。会社法に定められている「取締役」や「監査役」とは異なり、法律上の役員ではありません。会社ごとに定める「執行役員規程」に基づいて任命され、事業部門の責任者や業務執行の統括者として権限を持つケースが一般的です。
例えば建設会社においては、「工事部門の統括執行役員」や「営業担当執行役員」として実質的に経営に携わることがあります。取締役会の決議で任命される場合も多く、権限の範囲は会社ごとの規程により異なります。
このように、会社経営に大きな影響を与える立場であるにもかかわらず、登記上には記載されないため、建設業許可の「経営業務の管理責任者」の経験証明においては慎重な判断が必要になります。
2 経営業務の管理責任者に求められる経験とは?
建設業許可を申請する際に必要な「経営業務の管理責任者」は、次のような経験を有していることが求められます。
- 建設業に関して 5年以上の経営経験 を有していること
- もしくは、他の経営業務の管理責任者の下で 6年以上の補佐経験 を有していること
この「経営経験」とは、会社の取締役や個人事業主として経営に携わった経験が典型です。しかし、執行役員の場合は登記に反映されないため、その職務内容や権限を示す資料を用いて「経営に関与していた事実」を立証することが不可欠となります。
3 執行役員としての経験を証明するための資料
執行役員の経験を経営業務管理責任者の要件として認めてもらうためには、以下のような資料を準備することが考えられます。
(1) 履歴事項全部証明書
まずは、執行役員を務めた会社の履歴事項全部証明書を取得します。これ自体には「執行役員」の記載はありませんが、会社の実在性や事業内容を確認する基礎資料となります。
(2) 取締役会議事録
執行役員として任命されたことを証明するには、取締役会での決議内容が重要です。取締役会議事録に「○○氏を執行役員に選任する」と明記されている場合、それが任命の根拠資料となります。
(3) 辞令書・人事発令書
執行役員に任命された際の辞令書や人事発令書も有効な資料です。ここに具体的な職務や権限が記載されていれば、経営に実質的に関わっていたことを裏付けられます。
(4) 執行役員規程・職務分掌規程
会社ごとの「執行役員規程」や「職務分掌規程」により、執行役員の役割や権限が定められているケースがあります。これらの規程を提示することで、職務範囲や権限の大きさを証明できます。
(5) 業務実績を示す補足資料
場合によっては、社内の経営会議資料や業績報告、部門の統括責任者としての決裁文書なども補助資料として用いられることがあります。審査を行う担当部署にとって、実際に経営に携わっていたことを明確にする資料は多いほど有利です。
4 証明が難しい場合の対応
執行役員経験を証明する資料が不足している場合、申請がスムーズに進まないことがあります。その場合の対応策を整理します。
- 事前相談を徹底する
執行役員の経験証明はケースバイケースでの判断となるため、沖縄県庁や東京都都市整備局の建設業許可担当課に事前相談を行うことが不可欠です。 - 補助資料をできるだけ集める
規程や辞令だけでは弱い場合、実際に経営判断を行った証拠となる社内資料をできる限り収集しましょう。 - 他の経験要件での申請を検討する
執行役員の経験での立証が難しい場合、取締役経験や個人事業主としての経験など、他の経歴を組み合わせて申請する方法もあります。
5 那覇市・江東区での実務的な注意点
沖縄県那覇市や東京都江東区で建設業許可を申請する場合、担当窓口ごとに細かな運用の違いがあることもあります。
- 那覇市(沖縄県庁):地域の中小規模建設業者が多く、執行役員の経験証明については柔軟な判断が行われることもありますが、補助資料の提出を求められる傾向があります。
- 江東区(東京都都市整備局):大規模事業者の申請も多く、厳格に資料の妥当性を確認される傾向があります。議事録や規程など形式的に整った資料が重視されるケースが多いです。
そのため、申請を行う前には必ず地域の窓口に事前相談し、どの資料が必要とされるのか確認しておくことが成功への第一歩です。
まとめ
執行役員としての経験は、建設業許可申請における経営業務管理責任者の要件として認められる可能性がありますが、登記簿に記載されないため、その立証には工夫が必要です。
- 任命を示す「取締役会議事録」や「辞令書」
- 権限や職務内容を示す「執行役員規程」や「職務分掌規程」
- 実際の業務実績を裏付ける補助資料
これらを組み合わせて提出し、事前に沖縄県庁や東京都都市整備局で確認することが不可欠です。
執行役員制度は企業ごとに運用が異なるため、必要書類も申請先の判断によって変わります。早めの準備と相談を心掛けることで、許可取得の可能性を高めることができるでしょう。
幣事務所は建設業許可の専門ですので、お気軽にご相談下さい。