建設業許可における経営業務の管理体制とその実務対応について

建設業許可を取得するためには、さまざまな要件を満たす必要があります。その中でも特に重要であり、かつ申請においてつまずきやすいのが「経営業務の管理体制に関する要件」です。

この記事では、東京都江東区および沖縄県那覇市の事業者の皆様向けに、建設業許可に必要な「経営業務の管理体制」の考え方と、現実的な実務対応について詳しく解説します。


目次

1. 経営業務の管理体制とは?

建設業許可における「経営業務の管理体制」とは、建設業者として経営を継続的・安定的に運営できる能力や体制を備えているかどうかを審査するものです。

この要件は、令和2年10月の建設業法改正によって、「経営業務の管理責任者」の設置義務から、「経営業務の管理体制の確保」へと変更され、柔軟な運用が可能になりました。

しかしながら、要件そのものは依然として厳格に審査されるため、適切な準備と理解が必要です。


2. 経営業務の管理体制の概要

経営業務の管理体制を備えていると認められるためには、以下のいずれかのパターンに該当する必要があります。

パターン①:経営業務の経験を有する常勤役員等がいる

申請者(法人または個人事業主)において、次のような経験を持つ方が常勤役員等に含まれている場合、要件を満たすとされます。

  • 建設業の経営業務に関し 5年以上の経験 がある
  • 法人の場合:取締役や執行役など、会社の経営に直接関与する立場であること
  • 個人の場合:事業主または支配人としての経営経験があること

「経営業務」とは、工事の受注・資金繰り・人事・経理・契約管理など、企業経営の中核的な業務を指します。単に現場監督や営業担当としての経験では要件を満たしません。

パターン②:外部の支援体制を含めた経営管理体制が整っている

近年の法改正により、内部に上記のような経験者がいない場合でも、支援体制を構築することで代替要件として認められることがあります。以下の条件が必要です。

  • 外部の建設業経営に詳しい者が、申請者の経営判断に関与していること
  • 定期的な経営助言やアドバイザリー契約を締結していること
  • 十分な実績・経験がある支援者であること(例:経営コンサルタント、建設業OB等)

ただし、審査のハードルはやや高めであり、支援体制の実効性や継続性を具体的に証明する必要があります。


3. 経営業務の経験とは?求められる実績内容

「経営業務の経験」とは単に会社に在籍していた期間ではなく、建設業の経営に直接関与していたことを証明できる実績を指します。以下のような内容が具体的に求められます。

  • 建設業の受注・契約に関する決裁・判断の関与
  • 財務管理、資金繰り、取引先との折衝などの経験
  • 労務・人事・下請との契約管理

また、経験年数については、一般的に次のように分類されます。

経験者の立場必要な経験年数
代表取締役・個人事業主5年以上
役員(経営業務従事)6年以上
使用人(支配人等)7年以上

4. 経営経験を証明する書類の整備

申請時に経営業務の管理体制があることを証明するためには、経験年数に応じて、次のような書類が必要になります。

法人役員としての経営経験を証明する書類

  • 履歴事項全部証明書(法人登記簿)
  • 確定申告書(別表一、法人事業概況説明書)
  • 工事契約書、請求書などの業務実績書類
  • 決算書、納税証明書、取引先との契約資料など

個人事業主としての経験

  • 開業届、廃業届
  • 確定申告書(第一表および収支内訳書)
  • 工事請負契約書や請求書類
  • 工事の写真や日報などの裏付け資料

注意点

  • 単なる在籍証明や雇用契約書では、経営業務への関与を証明できないため不十分です。
  • 契約書などの資料が複数年にわたって整っていることが望ましいです。

5. 実務対応のステップ

ここからは、経営業務の管理体制をどのように実務上整備し、建設業許可申請に対応するかを具体的に見ていきます。

ステップ①:自社の体制確認と対象者の洗い出し

  • 代表者や役員の中に、建設業での経営経験がある者がいるか確認します。
  • 過去に自社や他社で取締役や事業主として活動していたかをチェックします。

ステップ②:証明書類の収集

  • 該当する経験期間中の法人登記簿や確定申告書を取得します。
  • 契約書や請求書、経理資料など、業務に関わっていたことを裏付ける書類を年別に整理します。

ステップ③:支援体制の検討(要件に満たない場合)

  • 外部の専門家や経営者の支援を受けて、顧問契約などを締結します。
  • 定期的な経営助言体制を文書化し、申請書類に反映させます。

6. よくある実務上のつまずきポイント

経験年数が足りない

「役員として3年しか経っていないが、以前に営業職で10年いた」というケースでは、原則として役員経験が5年以上必要です。営業職時代の経験は、単独では評価されない可能性があります。

書類の不備

  • 確定申告書に建設業としての売上が明記されていない
  • 契約書に署名や押印がなく、業務実態の証明にならない
  • 納税証明書の提出漏れ

外部支援体制の立証が不十分

  • 顧問契約の内容が不明確で、実効性に疑問があると判断される
  • 相談履歴や指導記録がなく、形式的な関与と見なされる

7. 江東区・那覇市での審査傾向と注意点

東京都江東区では、東京都都市整備局が、沖縄県那覇市では県庁土木建築部が建設業許可を審査します。いずれも全国的に見て審査が比較的厳格な傾向があり、書類の整合性や具体性が重要視されます。

  • 経験年数の裏付けが不十分な場合、補正指示が出やすい
  • 曖昧な表現では通用せず、具体的な役職や職務内容が求められる
  • 契約書類や決算書は可能な限り年度ごとに整理し提出すること

8. まとめ

経営業務の管理体制に関する要件は、建設業許可における「入り口」の部分であり、他の要件(技術者、財産基盤など)が揃っていても、この要件をクリアできなければ許可を受けることはできません。

そのため、申請を考えている事業者の方は、まずはご自身または関係者の経営経験を客観的に評価し、それに基づいて準備を進めていくことが重要です。

東京都江東区や沖縄県那覇市で建設業を営む事業者の皆様にとって、本記事が実務に役立つ指針となれば幸いです。

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