
相続手続や遺言作成を検討されている方の中には、「急に身内が倒れ、遺言書を作成する時間も余裕もない。どうすればいいのか?」という状況に直面する方も少なくありません。そんなときに活用される制度のひとつが、「一般危急時遺言(いっぱんききゅうじいごん)」です。
本記事では、一般危急時遺言の仕組みや手続き、注意点について、東京都江東区や沖縄県那覇市で相続に関わる方々に向けて、詳しく解説します。
1.一般危急時遺言とは?
「一般危急時遺言」とは、病気や事故などによって死亡の危険が切迫した状態にある人が、緊急的に行うことができる「特別方式の遺言」のひとつです。通常の遺言方式(自筆証書遺言や公正証書遺言)では対応できない緊急事態に備えて、法律上特別に認められています。
この制度は、被相続人の最終意思をできる限り尊重するという観点から設けられたものです。
2.特別方式の遺言とは?
遺言には大きく分けて「普通方式」と「特別方式」の2つがあります。
- 普通方式:自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言など
- 特別方式:一般危急時遺言、難船危急時遺言、一般隔絶地遺言、船舶隔絶地遺言など
特別方式は、通常の方法による遺言作成が困難な事情があるときに限り利用できる「例外的」な制度です。中でも一般危急時遺言は、病気やケガ、老衰などで死亡が目前に迫っているときに行える緊急手段となります。
3.一般危急時遺言の具体的な方式と流れ
以下が、一般危急時遺言として有効な遺言を残すために必要な手続きです。
① 証人3人以上の立会いが必要
まず、証人が3人以上必要です。証人となる人は、利害関係のない成人であることが求められます。未成年者や推定相続人、受遺者、その配偶者などは証人にはなれません。
② 遺言者が証人の1人に口述
遺言者(被相続人)が、自分の意思で遺言の内容を口頭で証人の1人に伝えます。この際、明瞭な言葉で意思を示すことが必要です。
③ 口述内容を筆記し、全員で確認
遺言内容を口述で受けた証人は、それを筆記します。そして、遺言者本人および他の証人に内容を読み聞かせるか、閲覧させて確認します。
④ 各証人が署名押印
内容の確認後、すべての証人が筆記した内容が正しいことを承認した上で、署名押印します。なお、遺言者本人による署名や押印は不要です。
4.家庭裁判所の確認申立てが必要
この遺言方式には、非常に重要な期限があります。
- 遺言の日から20日以内に、家庭裁判所に「確認の申立て」をしなければならない
申立てを行うのは、証人の1人または利害関係人(推定相続人など)です。期限内に申立てが行われなければ、その遺言は効力を失います。
家庭裁判所は、申立てに基づき、遺言が適正に作成され、遺言者の真意に基づいているかどうかを審査します。
5.遺言者が回復した場合の効力
一般危急時遺言は、あくまで緊急措置として認められているため、遺言者が死亡の危機を脱し、その後も6か月以上生存した場合には、その遺言は無効になります。
これは、回復後に普通方式の遺言が作成できる状態に戻ったとみなされるからです。したがって、危急時遺言を行った後も、可能であれば速やかに公正証書遺言などの正式な方式で遺言を作成し直すことが望ましいです。
6.相続開始後の「検認」も必要
一般危急時遺言は、家庭裁判所の「確認手続」だけでなく、相続開始後に「検認手続」も必要となります。
検認とは、遺言書の存在や状態を家庭裁判所で記録・確認する手続きであり、遺言書の偽造・変造を防止するための制度です。これは、自筆証書遺言と同様に、一般危急時遺言にも求められています。
7.一般危急時遺言のメリットとデメリット
【メリット】
- 普通の遺言方式が使えない緊急時にも最終意思を遺せる
- 書面を自分で用意する必要がなく、口述で済む
- 証人の立会いがあれば作成可能
【デメリット】
- 証人の確保が難しい場合がある
- 裁判所の確認申立てが20日以内と短期間
- 遺言者が回復して6か月以上生存すると無効になる
- 相続開始後の検認手続も別途必要
8.実際に活用する場面と注意点
一般危急時遺言が用いられるケースとしては、以下のような状況が考えられます。
- 病院のベッドで余命がわずかと判断されたとき
- 急病や事故などで遺言作成の時間がないとき
- 災害時や避難所で緊急に遺言を残す必要があるとき
注意点
- 証人を速やかに確保すること
- 筆記した証人は20日以内に家庭裁判所へ申立てること
- 遺言の内容は明確に、誰に何を遺すのかをはっきり口述すること
9.まとめ 一般危急時遺言を活用するために
「もう時間がない」と判断されたそのとき、遺された家族のために自分の最終意思を法的に遺せる制度が一般危急時遺言です。ですが、緊急性が高く、手続きや要件も厳格であるため、実務経験豊富な専門家のサポートが不可欠です。
特に、東京都江東区や沖縄県那覇市のように、都市部と地方でそれぞれに事情や人間関係が異なる地域では、相続トラブルの予防のためにも、万一に備えて「普通方式の遺言」の準備をしておくことを強くおすすめします。