完成工事高と未成工事支出金・未成工事受入金の関係とは?建設業の会計処理と決算書の見方を理解する

建設業における決算処理は、業種の特性上、他業種と比べてやや複雑です。特に「完成工事高」「未成工事支出金」「未成工事受入金」という言葉は、決算書や会計帳簿でよく目にする一方で、その意味や相互の関係性を正確に把握できていない方も多いのではないでしょうか。

本記事では、建設業許可の維持や更新、また経営事項審査(経審)にも密接に関わる「完成工事高」と、それに関連する「未成工事支出金」「未成工事受入金」について、実務上の注意点を交えながら解説します。

目次

1. 完成工事高とは?

完成工事高とは、一定の会計期間内に完成・引き渡しが行われた工事に対して、請求または収益として認識された金額をいいます。つまり、「工事が終わってお金が入ったか否か」ではなく、「完成し、請求が確定した工事の金額」です。

これは、建設業許可における「決算変更届(事業年度終了報告)」や、経営事項審査(経審)の評価でも重要な項目とされています。

ポイント

  • 完成基準の場合:工事が完成し、引き渡された時点で完成工事高に計上
  • 進行基準の場合:進捗に応じて収益認識し、その金額を完成工事高として扱う

2. 未成工事支出金とは?

「未成工事支出金」とは、決算日時点でまだ完成していない工事に対して支出された原価の累計額を指します。例えば、材料費・外注費・労務費などの費用をすでに支払っているが、工事が未完成である場合に、その金額は完成工事原価ではなく、「未成工事支出金」として資産計上されます。

具体例

  • ある工事の総工期が令和7年4月~令和8年3月まで
  • 令和7年12月末で決算を迎えたとき、工事はまだ継続中
  • 令和7年中に支払った材料費、外注費等:800万円

この800万円が「未成工事支出金」として貸借対照表の流動資産に表示されます。

3. 未成工事受入金とは?

一方、「未成工事受入金」は、完成前の工事に対して、すでに受け取った前受金のような性格を持ちます。発注者からの着手金や中間金など、実際には工事が完成していないにもかかわらず、先に受領している金額が該当します。

これは、貸借対照表上では流動負債として表示されます。

具体例

  • 上記の工事において、着工時に発注者から前金で400万円を受け取っていた場合
  • 決算日現在で工事が未完成であるとき、この400万円は「未成工事受入金」として負債計上されます

4. 3者の関係を図解的に捉える

勘定科目会計区分内容
完成工事高収益決算期に完成した工事の請負金額
未成工事支出金資産(流動)完成前の工事に対して支出した費用の累計額
未成工事受入金負債(流動)完成前の工事について、発注者から受け取った金額

この3つの科目は、特に進行中工事が多い建設業においては、「完成していない工事の損益が決算書にどのように影響するか」を理解するための重要な視点です。

5. 工事完成後の処理イメージ

決算期をまたいでいた工事が完成した場合、次のような処理が行われます。

  • 「未成工事支出金」は、「完成工事原価」に振り替えられます
  • 「未成工事受入金」は、「売上(完成工事高)」として収益に計上されます
  • 工事完成とともに、利益・損失が確定します

つまり、これらの科目は「将来の収益・原価となる前払い・前受けのような性格」を持っており、工事完成時に損益計算書に反映されるという仕組みです。

6. 税務・建設業許可・経審への影響

6-1. 税務申告での注意点

未成工事支出金・受入金は税務上も明確に管理する必要があります。処理を誤ると、「未完成工事で利益を過大計上した」「支出を過少に見積もった」として、税務調査で指摘されるリスクがあります。

特に「原価比例法」で進行基準を採用している場合は、進捗率の算定根拠となる原価(未成工事支出金)の信頼性が重要です。

6-2. 建設業許可における決算変更届

決算変更届では、「完成工事高」「完成工事原価」などの項目が記載されますが、未成工事分はこの段階では完成していないため、売上として計上されません。

ただし、未成工事が多く残っている場合、次期の工事高の見通しに関する資料として、銀行や発注者への説明に使われることもあります。

6-3. 経審(経営事項審査)

経審の評価対象となる「完成工事高」「自己資本比率」などに、これらの勘定科目は間接的に影響を及ぼします。

  • 「未成工事支出金」が多いと、資産の部が膨らみ、流動比率の改善に寄与
  • 「未成工事受入金」が多いと、負債が増え、逆に自己資本比率を押し下げる可能性もある

そのため、適正な会計処理だけでなく、経審スコアへの影響を事前に想定した帳簿管理も求められます。

7. 実務上の留意点

複数の工事案件を明確に区分する

特に工期が長く、複数の工事を並行して受注している場合は、「工事別台帳」で原価・進捗・請負金額を個別に管理することが求められます。

経理・現場・営業が情報を共有する

原価の発生状況、工事進捗、請負契約の条件などを社内で正確に把握し合わないと、未成工事の処理がずれてしまいます。定期的な社内会議や原価管理の見直しも必要です。

顧問税理士・行政書士との連携を

未成工事の処理は、会計・税務・許可制度のすべてに関係するため、複数の専門家と連携して進めるのが理想的です。特に決算変更届や経審書類を提出する場合、事前の数値確認がトラブル防止になります。

8. まとめ

完成工事高・未成工事支出金・未成工事受入金は、建設業の会計処理において密接に関わる重要な勘定科目です。これらを正しく理解し、日々の帳簿管理や決算時に適切な処理を行うことで、税務リスクの低減はもちろん、建設業許可の更新や経審においても安心した対応が可能になります。

特に東京都江東区や沖縄県那覇市のような地域で公共工事を視野に入れている企業にとって、会計と許可制度の連携は非常に大切です。制度の仕組みを理解し、実務で使いこなしていきましょう。

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