高齢化の進行や認知症リスクへの関心の高まりにより、財産の承継や管理について生前から備える人が増えています。中でも代表的な手段が「遺言」と「家族信託」です。どちらも死後の財産の行き先を定める手段ではありますが、その目的・仕組み・効果の発生時期・法的性質には明確な違いがあります。
この記事では、東京都江東区や沖縄県那覇市にお住まいの皆さまに向けて、「家族信託と遺言の違い」について具体的に解説し、それぞれのメリット・デメリット、そして選び方のポイントをお伝えします。
1. 家族信託と遺言、それぞれの基本的な仕組みとは？
● 遺言とは？
遺言とは、自分の死後に財産を誰に、どのように承継させるかを記す法的な文書です。遺言書があることで、相続人間での遺産分割協議を避けることができ、故人の意思に沿った財産承継が可能になります。
主な遺言の形式には以下の3つがあります。
- 自筆証書遺言（自分で書く）
- 公正証書遺言（公証人が関与）
- 秘密証書遺言（署名捺印をするが内容は秘密）
※江東区や那覇市では、公正証書遺言を選ぶ方が多く、安全性と証拠力が高いため一般的に推奨されています。
● 家族信託とは？
家族信託とは、財産を託したい人（委託者）が、信頼できる家族（受託者）に財産の管理を託し、その利益を受ける人（受益者）を定めて生前から財産の管理・運用・承継を行う制度です。
家族信託の最大の特徴は、遺言と違い、「生前」から効力を発揮するという点にあります。
2. 家族信託と遺言の違いを一覧で比較
| 比較項目 | 遺言 | 家族信託 |
| 効力が発生する時期 | 本人の死亡後 | 契約締結（信託開始）後すぐ |
| 内容の変更可否 | 何度でも可能 | 委託者が変更権限を持たなければ不可 |
| 財産管理の可否 | 不可（生前は無効） | 可能（生前から管理ができる） |
| 認知症対策としての有効性 | 不十分（後見制度が必要） | 有効（信託契約で管理移行可能） |
| 対象財産の指定 | 遺言書で指定 | 信託契約で明示 |
| 財産承継の段階設計 | 基本的に一代限り | 二次相続・三次相続も設定可 |
| 家庭裁判所の関与 | 遺言執行者の選任などあり | 原則不要 |
| 証拠力・形式 | 自筆の場合はトラブル多い | 公正証書を用いると確実 |
3. 遺言のメリット・デメリット
【メリット】
- 法定相続分とは異なる分配ができる
- 相続人間の争いを予防できる
- 公正証書遺言なら証拠力が高い
- 遺産分割協議が不要になる
【デメリット】
- 生前の財産管理には使えない
- 認知症など判断能力喪失後には新たに作成・変更できない
- 死後にしか効力が生じないため、長期的・多段階の財産承継には不向き
4. 家族信託のメリット・デメリット
【メリット】
- 生前からの財産管理・処分が可能
- 認知症になっても受託者が管理できる
- 遺言で対応できない二次相続・三次相続の指定も可能
- 柔軟で実務的な設計ができる（共有不動産の管理などにも有効）
【デメリット】
- 信託契約の設計が複雑で、専門的知識が必要
- 信託契約により課税上の留意点が生じることがある
- 受託者に多くの管理責任が生じ、信頼関係が前提となる
5. どちらを選ぶべきか？目的別の使い分け
【遺言が向いているケース】
- 財産の管理は自分でできるが、死後の分配に意志を反映させたい
- 遺産が少なく、信託を組むほどではない
- 法定相続分と異なる分配をしたい
- 相続人間のトラブルを予防したい
→ 江東区や那覇市でも、相続人が遠方にいたり、高齢の親族がいる家庭では、遺言の活用による分割協議不要化のメリットが高く評価されています。
【家族信託が向いているケース】
- 将来、認知症等で財産管理が難しくなる可能性がある
- 不動産が多く、資産の流動化・承継を柔軟に設計したい
- 二次相続、三次相続まで見据えた承継設計をしたい
- 後見制度を避けたい、または使いたくない
- 共有不動産を単独管理したい
→ 特に那覇市など地元に不動産を多く持つ方は、親族間での管理や収益活用の設計を事前に進める目的で信託を活用する事例が増えています。
6. 遺言と家族信託を併用するという考え方
家族信託と遺言は対立する制度ではなく、併用可能かつ推奨される組み合わせです。
たとえば、家族信託で生前からの管理・運用と死後の二次承継までを設計し、遺言で信託財産以外の資産（自宅以外の預金など）をどのように分配するか定める、といった方法です。
信託契約では指定できない部分（遺言執行者の指名や、信託に含めない財産の分配）を遺言で補完することにより、相続対策の完成度が高まります。
7. 江東区・那覇市での活用事例と地域特性
江東区では、
- 「都内に不動産を持つが子どもは地方在住」
- 「親族関係が複雑で相続対策が必要」
というケースが多く、信託による自宅の管理・売却や、遺言による明確な財産分与指定が有効です。
那覇市では、
- 「親族が近くに住んでいる」
- 「自宅と収益物件を持っている」
という方に対し、家族信託で親族の協力体制を活かした設計がしやすく、また遺言で親族関係を明確にすることでトラブル防止につながる事例が多く見られます。
まとめ 自分に合った制度選びをするために
遺言も家族信託も、「家族に迷惑をかけず、自分の意思をきちんと反映する」ための重要な制度です。
どちらが優れているかというよりも、目的や家庭の事情に応じて、適切な制度を選び・組み合わせていくことが肝心です。
「自分にはどちらが合っているのか分からない」という方は、一度専門家と一緒にご自身の財産と家族構成を整理してみることをおすすめします。
将来に備える第一歩として、ぜひ家族信託と遺言の違いを理解し、後悔のない相続対策を始めてみてはいかがでしょうか。
