認知症の方がいる場合の遺産分割協議書について~江東区・那覇市で相続手続きを進める方へ~

相続手続きは、相続人全員が協議に参加し意思表示しなければ成立しません。
しかし、現実には相続人の中に高齢者が含まれ、さらに認知症を患っているケースが珍しくありません。
東京都江東区・沖縄県那覇市でも、高齢化の進行に伴い「相続人の一人が認知症」という相談が急増しています。

認知症の方が相続人である場合、
遺産分割協議書をそのまま作成することはできません。
なぜなら、協議内容を理解し、自分の意思を示す”判断能力”が必要だからです。

この記事では、相続手続きに認知症の相続人がいる場合に必要となる、
「成年後見人制度」と「遺産分割協議書作成までの流れ」をわかりやすく解説します。

目次

1. 認知症の相続人は遺産分割協議に参加できない?

遺産分割協議は「相続人全員の合意」で成立します。
つまり、協議の内容を理解し、同意して署名押印する能力が必要になります。

しかし、認知症が進行すると次のような状態が見られます。

  • 相続手続きの内容が理解できない
  • 自分の財産や相続分を把握できない
  • 家族の説明を理解してもすぐ忘れてしまう
  • 記憶障害・判断力低下が目立つ

このような場合、その方がたとえ成人であっても
法律上は「単独で有効な意思表示をすることができない」状況と判断されます。

未成年者や胎児と同じように、
“代わりに協議に参加してくれる代理人”を立てる必要があります。

ただし、未成年や胎児の場合に家庭裁判所で選任されるのは「特別代理人」ですが、
認知症の場合は事情が異なり、
家庭裁判所で「成年後見人」を選んでもらう必要があります。

2. なぜ特別代理人ではなく「成年後見人」なのか?

特別代理人は、特定の法律行為(今回なら遺産分割協議)だけを代理する一時的な代理人です。
一方で、認知症の方の場合は、日常的な財産管理や身上監護(生活面のサポート)が必要になることが多く、
法律もこうした状況を想定して「成年後見制度」を用意しています。

成年後見人は、

  • 本人の財産管理
  • 預貯金や不動産の管理
  • 介護サービス契約
  • 遺産分割協議の代理
  • その他の法律行為

など、本人の利益を守るために幅広く代理する役割を担います。

遺産分割協議は本人の権利義務に直接かかわる重大な行為であるため、
家庭裁判所は、認知症の方には原則として成年後見人を選任することを求めています。

3. 成年後見制度とは?

成年後見制度は、判断能力が不十分な方を保護するための法律制度です。
家庭裁判所が選任した「成年後見人」が、その方を代理して法律行為を行います。

成年後見制度の種類(重要度順)

  1. 後見(判断能力がほとんどない)
     日常生活の多くに支援が必要な状態。
  2. 保佐(判断能力が著しく不十分)
     重要な財産行為には代理が必要。
  3. 補助(判断能力が不十分)
     一部の法律行為について同意や代理が必要。

遺産分割協議の代理は重大な行為にあたり、
多くの場合、後見または保佐が選任されます。

4. 成年後見人の候補者は誰になる?

家庭裁判所は、本人の生活状況や親族関係を考慮しながら、成年後見人を選びます。

一般的な候補者は次のとおりです。

  • 子ども(長男・長女など)
  • 配偶者
  • 兄弟姉妹
  • 親族
  • 専門職後見人(弁護士・司法書士・社会福祉士など)

近年では、家族間の利害関係を避けるため、
専門職後見人が選ばれるケースが増えています。
特に遺産分割協議では、家族の中で利益相反が起こりやすいためです。

5. 成年後見人選任申立ての流れ

(江東区・那覇市での実務イメージ)

成年後見人の選任は、家庭裁判所に申立てを行います。

江東区→東京家庭裁判所
那覇市→那覇家庭裁判所
が窓口となります。

必要書類(代表例)

  1. 成年後見人選任申立書
  2. 本人の診断書(家庭裁判所所定の様式)
  3. 本人の戸籍謄本・住民票
  4. 相続人全員の戸籍関係書類
  5. 財産目録(預金残高、固定資産評価証明書など)
  6. 成年後見人候補者の住民票
  7. 親族関係説明図

診断書は必須で、医師が“判断能力が不十分である”ことを医学的に確認します。

手続きの期間

通常は 2〜3か月程度 かかります。
相続税申告がある場合(10か月以内)、スケジュール管理が重要になります。

6. 成年後見人が選任された後の流れ

成年後見人が選任されると、その人が認知症の相続人の代理人となり、
遺産分割協議に参加します。

この際、協議書の内容は、

  • 本人(認知症の相続人)の利益を害していないか
  • 法定相続分を大きく下回っていないか
  • 不動産を処分する場合に合理的な理由があるか

などが非常に厳しくチェックされます。

後見人は家庭裁判所に「財産目録」や「後見事務報告書」を提出する義務もあるため、
不透明な相続分配は認められません。

7. 認知症の相続人の取り分を減らしたい場合の注意点

事情により、認知症の相続人の取り分が法定相続分より少なくなる場合があります。

例として、

  • 介護を長年担ってきた子どもが多めに財産を取得する
  • 不動産を単独で相続し、固定資産税や維持費の負担を引き受ける
  • 認知症の方は施設入所中で、預貯金を手元に残す方が適切

などが考えられます。

しかし、法定相続分を下回る場合には
「合理的な理由」を遺産分割協議書に必ず記載する必要があります。

記載の例

「本遺産分割は、本人○○○○の介護体制及び長期的な生活費負担を考慮して、
子○○○○が後記不動産を取得し、維持管理費を負担するため、
本人○○○○の相続分を法定相続分より減少させるものである。」

このように「本人の利益を損なわない」ことを明示することで、
成年後見人も協議に参加しやすくなり、家庭裁判所からも認められやすくなります。

8. 成年後見中の注意点

1. 成年後見人は単独で不動産を売却できない

不動産売却は本人の生活に重大な影響を与えるため、
家庭裁判所の許可が必要です。

2. 本人の資産は自由に使えない

  • 親族のための支出
  • 相続人のための立替
  • 名義変更後の資産の勝手な使用

などは、後見人の権限を超える行為になります。

3. 後見人の交代が必要なケースもある

後見人に不正行為・怠慢・利益相反がある場合、家庭裁判所が交代を命じます。

9. 相続人に認知症の方がいる場合の手続きまとめ

  1. 認知症の相続人は遺産分割協議に参加できない
  2. 家庭裁判所で成年後見人を選任してもらう
  3. 診断書を取得し、必要書類を準備する
  4. 成年後見人が遺産分割協議に参加する
  5. 協議内容は「本人の利益を害していないか」厳しく審査される
  6. 法定相続分を下回る分配は合理的理由が必須

特に江東区や那覇市では、高齢化が進む中で、
認知症を伴う相続は今後さらに増えると考えられます。
制度を正しく理解し、家族全員が納得できる形で手続きを進めるためには、
早い段階で準備を始めることが重要です。

終活・生前相談、遺言の作成、相続手続きは行政書士見山事務所へお気軽にご相談下さい。

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