~続き~ 民事信託(家族信託)について

大変便利な民事信託(家族信託)ですが、デメリットも見ておきたいと思います。

目次

意思能力を喪失した後では利用できない

家族信託の利用を検討する上で、最も重要な条件は 「意思能力」があることです。

家族信託は信託契約を締結することにより開始しますが、意思能力が十分でない者が締結した契約は、民法上無効となります。そのため意思能力を喪失した後では家族信託を利用することはできません。

認知症の症状が出始めていると診断されてしまったとしても、家族信託の利用が直ちに不可能になる訳ではありませんが、進行のスピードは人によって異なるため、時間的猶予がどれくらいあるか全く予想できないものです。

ですので、家族信託を検討している場合は早急に対策を進めていくことをおすすめします。

また、既に認知症という診断を受けていた場合でも症状が軽度であれば、問題なく家族信託を利用できるケースもあります。認知症と診断されているから利用できないかもと悩まれている方も、一度相談してみることをおすすめします。

損益通算ができない

所得税の申告にあたり、赤字の所得を他の所得から差し引くことで課税される所得を減らすことを「損益通算」といいます。家族信託では、損益通算を行うことができません。

信託財産に収益不動産が含まれている場合、信託財産から生じる不動産所得にかかる損失は、なかったものとみなされます。そのため信託された不動産所得は、信託されていない収益不動産の黒字から差し引くことができないのです。(租税特別措置法第41条4項の2)

大規模な修繕を行う予定のある不動産を信託しようと考えているような場合は、注意しなければいけません。

収益不動産を信託すると通常よりも多くの所得税を支払うことになる可能性があります。

必要に応じて税理士に相談するなど、何を信託すべきか慎重に判断しましょう。

節税対策にはならない

家族信託は直接的な節税効果は期待できません。

家族信託を利用したからといって、本来払うべき税金が減るというわけではありません。

どのように家族信託を設定するのかにより課税される税種類もかわってくるため、家族信託の形と税金との関係をしっかりと把握しておくべきです。

信託できない財産がある

第一回でもお話しましたが、信託できない財産があります。

主に挙げられるのは農地と年金受給権です。

農地は農地法による制限を受け、家族信託で信託できません。
また年金受給権も信託することができません。

預金口座に振り込まれる年金は信託財産に含められますが、年金受給権自体を信託することはできません。そのため、受託者が管理している信託専用の口座や受託者自身の口座に年金を直接入金することはできません。

それにより、振り込まれた年金をすぐ使うことができない点は注意すべきです。

成年後見制度でしかできないこともある

成年後見制度の大きな特徴として「身上保護」があります。

身上保護とは、意思能力を喪失した本人に代わり住居確保や生活環境の整備、介護・福祉施設への入居、医療・入院に関する契約などの手続きを行うことです。家族信託は財産管理がメインであるため、受託者に身上保護権がありません。

そのため、身上保護についてどうしても支援が必要な場合は、任意後見制度を併用するなどの手段を取る必要があります。

ただし一般的には家族が代わりに手続きをしている現状も多いため、身上保護だけのために成年後見制度を利用するかどうかについては慎重に判断することが必要です。

成年後見制度は申立てをしてから手続き完了まで、非常に時間を要します。しかし時間を掛けさえすれば利用することは可能であるため本当に必要になった時に利用を検討するという選択をしても良いかもしれません。

いずれにしてもそれぞれの特性をきちんと理解した上で、家族の状況に合った選択ができるようにしましょう。

税務申告の手間がかかる

家族信託を利用し信託財産から年間3万円以上の収入がある場合、受託者は翌年1月31日までに税務署に対して信託計算書や信託計算書合計表を提出する必要があります。

また、信託財産に不動産所得がある場合、毎年の確定申告において不動産所得用の明細書の他、信託財産に関する明細書を別途作成して添付しなければなりません。

こうした税務申告を自分自身で行うことに不安がある方は税理士などに前もって相談してくおくことが必要です。

長期にわたって受託者が拘束される

家族信託のメリットの1つに財産を何代にも渡って承継させることができる点を挙げました。しかし裏を返せば長期間にわたり契約が続くことはデメリットにもなり得ます。

信託契約が開始すると、受託者は契約内容に従って財産管理を行う必要があります。仮に2代先、3代先と承継先を指定した場合、契約期間中は何十年もの間、受託者は信託契約に拘束されることになるためです。

さらに受託者は毎年1度、信託契約に係る帳簿をはじめとする書類を作成し、その内容を受益者に対して報告する義務も発生します。

長期にわたり連続する信託は契約が複雑化し、思いがけないトラブルが発生するリスクがある上に、家族の負担となる可能性もあります。

家族信託を検討する際はこの点を考慮して話し合いながら設計すると良いでしょう。

受託者が暴走する危険性がある

家族信託では受託者に大きな権限があるため、委託者の意思に反する管理をする可能性も否定できません。委託者は信頼の置ける人物を受託者に選ぶ必要がありますが、必ずしも受託者の暴走を見抜けるわけではないでしょう。

権限を明確にしたり、信託する範囲を制限したりすることで対策ができます。しかし制限を付けるのであれば、成年後見制度のほうが良いということにもなってしまいます。お互いに話し合った上で決めることをおすすめします。

遺留分侵害額請求の対象となる場合がある

法定相続人に最低限保障された相続財産のことを遺留分といいます。遺留分を侵害するような内容で家族信託契約を結んでしまうと、遺留分侵害額請求をされる場合があります。

2018年9月12日東京地方裁判所において、遺留分の潜脱を目的とした家族信託契約を公序良俗に違反するため無効とした判例もありました。遺留分侵害は相続トラブルに発展するケースが非常に多いので、信託契約書作成時に遺留分へ配慮した設計にしておくと良いでしょう。その他、信託で財産を承継させる予定のない相続人には別途、遺言や生命保険により財産を承継できるようにしておくなどの対策を講じることも有用です。

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