株式会社の定款変更手続きにおける行政書士と司法書士の業務範囲、いわゆる業際について

株式会社の定款変更は、事業の成長や環境の変化に応じて柔軟に対応できるようにする重要な手続きです。この記事では、定款変更手続きに関して、行政書士ができる業務と、司法書士にしかできない業務の違いについて詳しく解説します。

1. 定款変更の概要

定款とは、株式会社の基本的なルールや目的を定めたもので、会社法に基づいて作成されます。定款には、会社の商号や目的、本店所在地、役員の構成、株式の発行条件など、会社運営に関する重要な事項が記載されています。定款を変更する場合は、株主総会での特別決議が必要です。

2. 定款変更手続きの流れ

定款変更の一般的な手続きは、以下のような流れで進みます。

1.株主総会の招集通知:定款を変更するための株主総会を開催するために、株主に招集通知を送ります。

2.株主総会の開催と特別決議:定款変更の議案を株主総会で提案し、特別決議(3分の2以上の賛成)を得ます。

3.議事録の作成:株主総会の議事録を作成します。

4.定款の変更:決議に基づき、定款の内容を修正します。

5.登記申請:定款変更の内容が登記を要する事項であれば、法務局に登記を申請します。

この手続きの中で、行政書士と司法書士の役割が明確に分かれている点が存在します。

3. 行政書士ができる業務

行政書士は、主に文書の作成に関わる専門家として、定款変更手続きの一部を支援できます。具体的には以下の業務が行政書士の範疇です。

(1) 株主総会の招集通知作成

株主総会を招集する際には、招集通知が必要です。行政書士は、この通知文を適法かつ適切に作成し、株主に対して送付する支援を行います。

(2) 株主総会議事録の作成

定款変更の議案が承認された場合、株主総会の議事録が必要です。この議事録は法的に重要な書類であり、行政書士がその作成を代行できます。議事録には、特別決議が適切に行われたことを明確に記載しなければなりません。

(3) 定款の変更内容の作成

定款変更そのものに関して、行政書士は会社の要望に基づき、適法な範囲で定款の変更案を作成することができます。これには、目的の変更や商号の変更、役員構成の変更などが含まれます。

(4) 法定書類の作成・提出支援

定款変更に関連するその他の書類、例えば株主への通知や会社法上の手続きに必要な書類の作成も行政書士が担当できます。さらに、法務局への提出書類の準備や内容確認も支援可能です。

4. 司法書士しかできない業務

一方で、司法書士は定款変更に関する登記業務を専門としています。定款変更によって会社の登記事項に変更が生じる場合、その登記手続きは司法書士の独占業務です。具体的には以下の業務が該当します。

(1) 登記申請手続き

定款変更の結果、商号や目的、本店所在地、取締役や監査役の変更など、会社の登記事項が変更された場合、法務局への登記申請が必要です。この登記申請手続きは、会社法及び商業登記法に基づき、司法書士が代行することができます。登記事項証明書や必要な添付書類を準備し、正確に法務局に提出する業務は、司法書士の独占業務です。

(2) 法務局への書類提出

行政書士は書類作成を支援できますが、登記申請書類を法務局に提出する業務は司法書士の独占業務です。登記が必要な場合には、最終的に司法書士の関与が必須となります。

(3) 登記内容の確認・補正

登記内容に不備があった場合、法務局からの補正指示に対応するのも司法書士の役割です。定款変更登記に関して、法務局と直接やりとりをするのは司法書士の独占業務であり、この点で行政書士は関与できません。

5. 業務分岐の重要性

定款変更手続きにおける行政書士と司法書士の役割分担は、法律上の権限に基づいています。行政書士は文書作成を専門とし、書類作成や手続きのサポートを行いますが、登記申請という法的な手続きについては司法書士が担当します。

行政書士のメリット

行政書士は、登記手続きが不要な定款変更(たとえば、役員の任期を変更する場合や業務内容に大きな変更がない場合)においても、迅速に書類作成を支援できます。また、企業内法務部門のサポートとして、企業が持つ定款やその他の法的文書の改訂・整備にも貢献できます。

司法書士のメリット

一方で、登記が必要な手続きでは、法務局への申請や補正対応など、登記業務全般を迅速かつ正確に行える司法書士の専門知識が必要不可欠です。特に会社法や商業登記法に精通した司法書士が、登記の不備を防ぎ、スムーズな手続きを実現します。

6. 実務における協力の重要性

行政書士と司法書士は、定款変更手続きにおいて連携して業務を進めることが望ましいです。行政書士が会社内部の文書作成や手続きを支援し、司法書士が登記申請を担当することで、手続きを効率的かつ適切に進めることが可能になります。

ケーススタディ:商号変更

例えば、商号変更を行う場合、まず行政書士が株主総会の招集通知や議事録の作成、変更内容の提案をサポートします。その後、司法書士が変更後の商号を反映した登記申請を行い、法務局での手続きを完了させるという流れが一般的です。

まとめ

株式会社の定款変更手続きは、法律に基づいた厳密な手続きを要します。行政書士と司法書士は、それぞれの専門性に基づき、企業がスムーズに定款を変更できるようサポートを行います。行政書士は文書作成や手続きのサポートを行い、司法書士は登記業務を担当することで、互いに補完的な役割を果たすことが重要です。

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