土地の越境物には“覚書”が重要! その記載内容とポイントについて

土地の境界に関する問題は、不動産取引や住宅建築の際に大きなトラブルを引き起こす原因となります。特に、隣接地からの越境物が発見された場合、それを適切に処理しないと後々の紛争につながる恐れがあります。この記事では、越境物に関するトラブルを防止するために重要な「覚書」について、その必要性や記載内容、さらには具体的なひな形も紹介します。

越境物とは

越境物とは、隣接する土地の所有者が、自分の敷地を越えて他人の土地に設置してしまった構造物や設備を指します。具体的には以下のようなものが越境物に該当します。

・塀やフェンス:境界線を越えて隣の土地に張り出している場合

・樹木:枝や根が隣地に侵入している場合

・電気の引込線:電柱から引き込まれる線が隣地を通っている場合

・物置やガレージ:隣接する土地にまたがって設置されている場合

越境物は放置しておくと、隣人との間で境界や所有権に関するトラブルが発生する可能性が高まります。特に、不動産取引後や新築工事の際に問題が発覚した場合、その対応には多大なコストと時間がかかることも少なくありません。

覚書の重要性

越境物が見つかった際、トラブルを防ぐために「覚書」を隣人と取り交わすことが非常に重要です。覚書は、両者が越境物の存在を確認し、どのように対処するかについて合意する書類です。この合意により、将来的なトラブルや不安定な状況を回避することができます。

覚書を作成する理由の一つは、日本の民法第162条に基づく「取得時効」を防ぐことです。取得時効とは、他人の土地を一定期間占有していると、その土地の所有権を取得できる制度です。具体的には、以下の期間にわたって他人の土地を平穏かつ公然と占有していた場合、その土地の所有権を取得することが認められます。

・20年間:占有が続いた場合、無条件に所有権を取得

・10年間:占有開始時に善意であり、かつ過失がない場合

覚書を取り交わすことにより、越境部分の土地の所有権が隣人に移行することを防ぎ、両者間の関係を法的に明確にすることができます。

覚書に記載すべき内容

覚書には、越境物の状態や今後の対処方法について具体的に記載する必要があります。以下では、覚書に含めるべき主な項目を紹介します。

越境物の事実確認

覚書の最初に記載すべき事項は、両者が越境物の存在を確認しているという事実です。具体的には、越境物が何であるか(塀、電線、物置など)や、それがどの場所にどのように越境しているかを詳細に記載します。また、視覚的に理解しやすくするために、越境箇所の図面や写真を別紙として添付することも有効です。

現状使用の承認

隣地の所有者が、現在の越境物を引き続き使用することを承認する旨も明記します。特に、越境物が撤去できない場合や、撤去には大規模な工事が必要な場合は、現状維持を承認することが現実的な解決策となります。この承認は、越境物が将来的に建て替えや改築されないことを条件とするのが一般的です。

撤去の条件

将来的に越境物を撤去する際の条件も、覚書に記載しておく必要があります。例えば、隣地所有者が建て替えや改築を行う場合には、自己負担で越境物を撤去することを条件とすることが一般的です。また、撤去後に越境部分の土地について所有権を主張しないことも、明確に記載することが重要です。

覚書の継承義務

覚書の内容は、将来土地の所有者が変わった場合にも効力を持たせる必要があります。そのため、覚書の権利や義務が、新しい土地所有者に引き継がれることを明記することが重要です。これにより、土地売買や譲渡が行われた際にも、越境物に関する取り決めが確実に継続されます。

覚書のひな形

越境物に関する覚書は、越境物の状況や両者の合意内容によって異なりますが、以下に一般的なひな形を紹介します。

覚書のひな形例

〇〇(隣地所有者)(以下、「甲」という)と、△△(敷地所有者)(以下、「乙」という)は、双方が所有する土地境界上の越境物について、以下のとおり合意した。

第1条

甲・乙は、甲所有の越境物(具体名)が、別紙確認図のとおり、乙所有の土地の境界線を越えて存在していることを相互確認した。

第2条

乙は、甲所有の越境物について、建て替えや改築等で現状変更しない限り、撤去請求をしないものとし、現状のまま所有・使用することを承認する。

第3条

甲は、甲所有の越境物について、将来に建て替えや改築等を行う際には、自己の責任と費用負担において越境物を撤去し、越境部分の乙所有地について所有権を主張しないものとする。

第4条

甲・乙は、所有地を第三者に譲渡する際に、本覚書の権利・義務を当該譲受人に対して継承させるものとする。

【締結日、双方の署名および押印】

この覚書は、土地の所有者が将来変わった場合でも、覚書の効力が続くように工夫されており、双方の責任範囲を明確にしています。

まとめ

越境物が発見された場合、迅速に隣地所有者と覚書を取り交わすことが、将来的なトラブルを回避するための最善の方法です。覚書を通じて、両者が越境物の存在と対処方法について明確な合意を得ることで、境界や所有権に関する紛争を未然に防ぐことが可能です。

覚書に記載すべき内容には、越境物の事実確認や現状使用の承認、撤去条件、そして覚書の継承義務が含まれます。これにより、土地所有者間の関係を法的に安定させ、不動産取引や建築工事が円滑に進むことを目指しましょう。

土地の境界確認は、将来のトラブルを防ぐために非常に重要です。隣人との関係を良好に保ちながら、法的なリスクを回避するために、覚書の締結を検討してみてください。

目次