相続手続きで急な費用が必要なときに使える「預貯金の払い戻し制度」とは?

相続が発生すると、葬儀費用の支払い、病院や施設の清算、遺品整理など、急な支払いが必要になることが多くあります。しかし、亡くなった方(被相続人)の銀行口座は金融機関によって凍結され、すぐにはお金を引き出せなくなります。そのため、相続人が自身の資金で立て替えなければならないケースも少なくありません。

このような事態に対応するため、2019年に「預貯金の払い戻し制度」が導入されました。本記事では、東京都江東区や沖縄県那覇市で相続手続きを進める方々に向けて、この制度の詳細と利用方法についてわかりやすく解説します。

目次

1. なぜ銀行口座は凍結されるのか?

相続が発生すると、金融機関は被相続人の死亡を確認した時点で、その人の預貯金口座を凍結します。これは、相続人間での不正な引き出しや、トラブルを防ぐための措置です。

口座が凍結されると、相続人が被相続人の預貯金を自由に引き出すことはできなくなります。通常、以下のような手続きが必要です。

  • 遺言書がある場合:遺言執行者が手続きを行い、金融機関で手続きすることで解除可能。
  • 遺産分割協議が成立している場合:相続人全員の署名・押印がある遺産分割協議書を金融機関に提出し、手続きを行うことで解除可能。
  • 遺産分割協議が未成立の場合:相続人全員の署名・押印がある「金融機関所定の相続手続依頼書」を提出することで解除可能。

しかし、これらの手続きには時間がかかるため、すぐにお金が必要な場合に困ることになります。

2. 預貯金の払い戻し制度とは?

このような問題に対応するため、2019年7月に施行された民法改正により、「預貯金の仮払い制度(預貯金の払い戻し制度)」が導入されました。

この制度では、相続人が金融機関に請求することで、一定額まで預貯金の払い戻しを受けることができます。遺産分割協議が完了していなくても、相続人の単独で手続きできる点が大きな特徴です。

3. 払い戻しできる金額

払い戻しできる金額は、以下の計算式で求められます。

相続開始時点での預貯金総額 × 3分の1 × 払い戻しを求める相続人の法定相続分

ただし、1つの金融機関から引き出せる上限は150万円までです。

【計算例】

たとえば、被相続人の預貯金が1,200万円あり、相続人が子ども2人(AとB)だった場合を考えます。

  1. 預貯金総額:1,200万円
  2. 3分の1を計算 → 1,200万円 × 3分の1 = 400万円
  3. 各相続人の法定相続分(1/2)を適用 → 400万円 × 1/2 = 200万円

この場合、AさんとBさんは、それぞれ200万円まで払い戻し請求ができます。ただし、1つの金融機関ごとの上限は150万円のため、実際に受け取れるのは150万円となります。

4. 預貯金の払い戻し制度の利用条件

この制度を利用するには、以下の条件を満たす必要があります。

【利用条件】

  1. 法定相続人であること(戸籍謄本などで証明が必要)
  2. 相続が発生していること(被相続人の死亡が確認できる死亡届などが必要)
  3. 金融機関ごとの上限150万円を超えないこと
  4. 相続開始時の預貯金額を基に計算される払い戻し可能額の範囲内であること

5. 手続きに必要な書類

金融機関ごとに必要な書類は異なる場合がありますが、一般的に以下の書類が求められます。

  1. 相続人の本人確認書類(運転免許証、マイナンバーカードなど)
  2. 被相続人の死亡が確認できる書類(死亡診断書、住民票の除票など)
  3. 相続関係を証明する戸籍謄本(被相続人と相続人の関係を示すもの)
  4. 払い戻しを請求する金融機関の口座情報

これらの書類をそろえて、各金融機関に手続きを申し込むことで、払い戻しを受けることができます。

6. 預貯金の払い戻し制度を活用する際の注意点

この制度は、相続手続きが完了する前に必要な資金を確保するためのものですが、利用する際にはいくつかの注意点があります。

【注意点】

  1. 払い戻した金額は相続財産の一部とみなされる
    → 後の遺産分割で考慮されるため、他の相続人とトラブルにならないように事前に相談しておくことが重要です。
  2. すべての金融機関で利用できるとは限らない
    → 一部の金融機関では独自の手続きルールを設けているため、事前に確認が必要です。
  3. 払い戻し可能額の計算を誤らないようにする
    → 事前に金融機関に確認し、適切な金額を請求することが大切です。

7. まとめ

相続が発生した際に、被相続人の預貯金口座が凍結されると、葬儀費用などの支払いに困ることがあります。こうした事態に対応するため、「預貯金の払い戻し制度」を利用すれば、最大150万円まで相続人が単独で引き出すことが可能です。

ただし、払い戻し金額は法定相続分に基づいて計算され、遺産分割の際に影響を与える可能性があるため、他の相続人とのトラブルを避けるためにも事前に話し合っておくことが重要です。

東京都江東区や沖縄県那覇市で相続手続きを進める際に、この制度を適切に活用し、スムーズな相続手続きを進めましょう。

相続に関するご相談は、行政書士見山事務所までお気軽にお問い合わせください。

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