税理士が作成する財務諸表と建設業許可の決算変更届における財務諸表の違いとは?

建設業を営む企業や個人事業主の皆様にとって、決算期ごとに作成する財務諸表は非常に重要な書類です。特に建設業許可を取得している場合には、決算終了後に「事業年度終了報告書」(いわゆる決算変更届)を提出しなければなりません。このとき、税理士が作成した財務諸表がそのまま使えると思っている方もいらっしゃいますが、実はこの2つの財務諸表には大きな違いがあります。

この記事では、「税務会計上の財務諸表」と「建設業許可に関する財務諸表」の違いを明確に整理し、それぞれの目的や必要性、注意点をわかりやすく解説します。

目次

1. 税理士が作成する財務諸表とは?

まず、税理士が作成する財務諸表についてご説明します。これは一般的に以下の目的のために作成されます。

  • 法人税や所得税などの申告
  • 金融機関からの融資申し込み
  • 会社経営の現状把握

税務会計上の財務諸表には以下のような書類が含まれます。

  • 貸借対照表(B/S)
  • 損益計算書(P/L)
  • 勘定科目内訳書
  • 株主資本等変動計算書
  • 注記表

これらの書類は「企業会計原則」や「法人税法」に基づいて作成され、税務署に提出されることが主な用途です。収益や費用の計上タイミング、評価方法などについても税法に即した処理がなされています。

2. 建設業許可の決算変更届における財務諸表とは?

一方、建設業許可を持つ事業者が毎事業年度終了後に提出しなければならない「決算変更届」には、建設業法に基づいた独自の様式に従って財務諸表を作成する必要があります。ここで求められるのは、単なる税務上の財務諸表ではなく、「建設業の実態を把握する」ための資料です。

主に以下の書類が提出対象となります。

  • 貸借対照表
  • 損益計算書
  • 完成工事原価報告書
  • 注記表(法人のみ)

これらの財務諸表は、国土交通省や都道府県の建設業許可行政庁が、事業者の財務基盤の健全性や継続性を評価するために使用します。

3. 両者の大きな違い

ここからは、両者の違いを項目ごとに詳しく見ていきましょう。

(1)作成の目的が異なる

  • 税務会計上の財務諸表: 税金計算のため、国税庁のルールに従って利益計算や損金処理が行われる。
  • 建設業許可用の財務諸表: 許可の継続・更新に必要。公共工事の元請資格審査(経営事項審査)などの資料として使われる。

(2)収益・費用の認識方法の違い

税務会計では、契約単位での引渡し基準や工事進行基準などが柔軟に適用されますが、建設業許可の財務諸表では「完成工事高」「完成工事原価」「未成工事支出金」「工事未収入金」など、工事進行状況を反映した勘定科目が必要になります。

(3)勘定科目の違い

税務上では見慣れた科目であっても、建設業許可の様式では別の科目に分類されることがあります。例えば以下のような違いが見られます。

税務会計建設業許可様式
売上高完成工事高
売上原価完成工事原価
仕掛品未成工事支出金
売掛金工事未収入金

このように、工事に関係する部分がより詳細に分類されるため、税務会計のままの形で提出することはできません。

(4)作成者が異なる場合がある

税務会計の財務諸表は基本的に税理士が作成しますが、建設業許可用の財務諸表は行政書士が建設業法に則って作成・整理する場合が多いです。

このため、建設業許可の実務に詳しくない税理士が作成した書類だけでは不十分なことが多く、行政書士との連携が重要になります。

4. よくあるトラブルと注意点

建設業者がよく陥るトラブルとして、次のようなケースがあります。

(1)税理士作成の財務諸表をそのまま提出してしまう

建設業許可の書式に合っていないまま提出し、役所から差し戻されるケースがあります。例えば「売上高」として記載されていた金額が、建設業許可用には「完成工事高」として別途記載する必要があるなど、項目ごとの整合性が問われます。

(2)完成工事原価報告書が添付されていない

税務申告には必要ない完成工事原価報告書を忘れるケースもあります。建設業法に基づく届出ではこの書類が必須です。

(3)欠損や債務超過の処理

税務では問題とされない欠損でも、建設業許可の更新時には財産的基礎を満たさないと判断される場合があります。純資産の額や現金預金の水準が審査の対象になるため、慎重な判断が必要です。

5. 行政書士との連携の重要性

建設業の会計と税務は、似て非なる専門分野です。建設業法に精通した行政書士と、税法に詳しい税理士の両者が連携することで、正確な財務諸表の作成と、許可維持に必要な手続きを滞りなく進めることが可能になります。

特に東京都江東区や沖縄県那覇市のように、建設業が地域経済の柱となっている地域では、役所による審査も丁寧に行われており、提出書類の正確性が重要です。

6. まとめ それぞれの目的に合わせた対応が必要

税務会計の財務諸表と、建設業許可の決算変更届における財務諸表は、見た目は似ていても目的・内容・評価基準がまったく異なります。単純に「税理士が作っているから大丈夫」と考えるのではなく、建設業許可の継続に必要な視点を持ち、正しい書類作成と提出を心がける必要があります。

建設業許可に関する実務は、専門知識と経験が求められる分野です。少しでも不安がある場合は、建設業許可に精通した専門家に相談し、正確でスムーズな対応を行うようにしましょう。

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