
1. 建設業許可と財務諸表の関係
建設業許可申請には、事業の経営状態を証明するための「財務諸表」が必要です。法人であれば直近事業年度の決算内容を基に、個人事業主であれば確定申告書を基にして、所定の様式に沿って「建設業許可用」の財務諸表を作成します。
しかし、この建設業許可に用いる財務諸表は、税務申告の際に使われる一般的な「決算書」や「申告書」とは構成や科目、表記ルールが異なる点が多く、初めて作成する方にとってはハードルが高く感じられるかもしれません。
この記事では、建設業許可申請で提出する財務諸表について、基礎から丁寧に解説し、東京都江東区および沖縄県那覇市を中心とする中小規模事業者の皆様がスムーズに作成できるよう、実務的なポイントを紹介します。
2. 財務諸表の種類と提出範囲
建設業許可申請で必要となる財務諸表は、以下の3種類です。
- 貸借対照表(B/S)
- 損益計算書(P/L)
- 完成工事原価報告書
これらはいずれも、直前の事業年度(決算が確定している直近の1期分)の内容について作成します。中間決算や仮決算は使えません。なお、継続して事業を営んでいれば、決算期の到来をもって確定した内容を反映することが前提です。
3. 決算書と建設業許可用財務諸表の違い
法人が作成する税務用の決算書では、一般に以下のような科目が使われます。
- 売掛金
- 買掛金
- 棚卸資産
- その他流動資産・負債
一方、建設業許可の財務諸表では、これらを「建設業の実態に即した名称」に読み替えて表記する必要があります。
例として、次のような置き換えが必要です。
税務決算書の科目 | 建設業財務諸表での科目 |
売掛金 | 完成工事未収入金 |
買掛金 | 工事未払金 |
棚卸資産 | 未成工事支出金 |
未収入金 | その他の未収入金 |
借入金(長短) | 短期借入金・長期借入金 |
このように「建設工事に起因する取引」と「それ以外の取引」を明確に分けて記載するのがポイントです。
4. 科目別の具体的な見方と書き方
(1)貸借対照表
資産・負債・純資産の状況を一覧にする表で、企業の財政状態を示す資料です。
主なポイントは以下の通りです。
- 【完成工事未収入金】=建設工事の売上が計上されたが、まだ入金がされていない金額。
- 【未成工事支出金】=まだ完成していない工事に対する原価のうち、すでに支払った費用(材料代、外注費など)。
- 【工事未払金】=工事に関する支出のうち、まだ支払っていないもの(下請業者への未払等)。
- 【自己資本】=純資産。法人では「資本金+利益剰余金」、個人事業主では「期首資本+当期利益−引出金」。
(2)損益計算書
売上と費用、利益の状況を示す表です。
- 【完成工事高】=完成し引き渡した建設工事の請負代金(税抜)
- 【完成工事原価】=完成した工事にかかった直接的な原価
- 【販売費及び一般管理費】=営業活動・事務にかかる人件費や水道光熱費など
- 【営業利益】=完成工事高-完成工事原価-販売費及び一般管理費
※税金(法人税等)は記載しません。
(3)完成工事原価報告書
建設業特有の資料で、工事の直接的なコスト構造を示します。
- 【材料費・労務費・外注費・経費】などの内訳を記載
- 完成工事分と未成工事分で原価を分ける必要があります
- 税務決算と突き合わせながら、金額の整合性を保ちます
5. 単位の書き方と記載方法
建設業許可の財務諸表では、原則として「千円単位」で記載します(東京都や沖縄県も同様のルールです)。書き方に注意が必要です。
- 2,000,000円 → 「2,000(千円)」と表記
- 小数点以下は四捨五入(1,234,567円 → 1,235(千円))
また、赤字の場合は「△(マイナス記号)」を付けます(例:△500)
6. 個人事業主の場合の対応
個人事業主の方は、確定申告書の控え(青色申告決算書など)を基に財務諸表を作成します。中でも重要なのが「収入金額」「必要経費」「期末資産・負債」の数値です。
青色申告書の以下のページを活用するのが一般的です。
- 第一表:所得金額等
- 第二表:事業専用の収支状況
- 三ページ目:貸借対照表(資産・負債)
ただし、建設業許可用の科目に置き換える必要がありますので、税理士が作成したままではそのまま使えないケースも多い点に注意してください。
7. よくある間違いと対策
- 科目の読み替えを忘れて、税務申告のまま提出してしまう
- 単位を間違えて「万円」や「円」で記入する
- 完成工事高と原価の対応関係が不明確
- 赤字(マイナス)表記を忘れる
これらの不備があると、申請の差し戻しや修正を求められることがあります。提出前には専門家のチェックを受けるのが安全です。
8. 書類の提出先と様式
東京都江東区の方は「東京都都市整備局」、沖縄県那覇市の方は「沖縄県土木建築部技術・建設業課」への提出が必要です。
様式は都道府県ごとに若干異なることもありますが、原則は国土交通省の定めた統一様式を基にしています。都道府県の建設業担当部署のWebサイトで最新の様式を確認しましょう。
9. まとめ
建設業許可申請の際に作成する財務諸表は、税務申告の決算書とは違い、建設業の実態を反映した特有の書式と表現が求められます。
東京都江東区・沖縄県那覇市で建設業許可を取得しようとしている方にとって、財務諸表は単なる数字の羅列ではなく、「経営の安定性と信頼性」を示す重要な資料です。
一見難しそうに見えるかもしれませんが、ポイントを押さえれば作成は可能です。不安がある場合は行政書士などの専門家に相談し、確実な申請を目指しましょう。