
建設業許可を取得する上で重要な要件のひとつが「専任技術者の設置」です。専任技術者とは、営業所ごとに常勤し、工事に関する専門的知識と経験を持った人物を指し、建設業許可を維持するためには必ず配置しなければなりません。
通常は営業所ごとに1名の専任技術者を置けば足りますが、近年では「複数名体制」で専任技術者を確保する企業も増えています。特に東京都江東区のように工事需要が高い都市部や、沖縄県那覇市のように観光開発やインフラ整備が盛んな地域では、技術者の安定確保が経営に直結するため、この考え方は大変有効です。
本記事では、専任技術者を複数名体制で配置することのメリットと課題について詳しく解説していきます。
1 専任技術者の役割と法的要件
専任技術者は、建設業法上、営業所に常勤することが求められています。具体的な役割は以下の通りです。
- 許可業種ごとの技術的要件を満たす人材であること
- 営業所で実質的に技術的な管理や指導を行うこと
- 他の会社と兼務せず、当該会社に専従していること
このため、専任技術者の退職や不在は、許可要件を満たさなくなるリスクを伴い、場合によっては許可の取り消しや営業停止につながります。
2 専任技術者を複数名確保するメリット
(1) リスク分散ができる
1名のみの場合、その人物が退職や病気、転勤などで不在になると、会社全体の許可が危うくなります。複数名体制であれば、急な離脱があっても他の技術者が引き継ぐことで、許可維持に支障をきたしません。
(2) 許可業種の拡大に対応できる
建設業許可は29業種に分かれています。例えば、建築一式工事と内装仕上工事の両方で許可を取りたい場合、それぞれに対応できる技術者を確保する必要があります。複数名体制を整えておけば、新しい業種追加や特定建設業への移行がスムーズに進みます。
(3) 受注機会が広がる
発注者や元請業者は、施工管理や技術力を重視します。専任技術者が複数いることは「技術力の厚み」として評価され、入札や民間取引での信用度が高まります。特に東京都江東区では大規模工事、沖縄県那覇市では観光関連工事など、複数現場を同時並行で進める機会も多いため、体制の強化は受注の幅を広げることにつながります。
(4) 人材育成につながる
複数名の技術者が在籍することで、若手社員への指導体制が自然に形成されます。ベテランと中堅、若手の連携により、技術の継承や人材の定着が期待できます。
3 専任技術者を複数名配置する際の課題
(1) 人件費の負担
専任技術者は資格や経験を持つ専門人材であるため、人件費は決して低くありません。複数名を確保するには、給与や社会保険、福利厚生費用の増加を覚悟する必要があります。
(2) 常勤性の確保
専任技術者は「常勤」が求められるため、他の会社との兼務や形式的な在籍は認められません。複数名を名義だけで置いていると、調査や更新時に問題視される恐れがあります。例えば、給与明細や社会保険加入記録などで「実際に勤務しているか」が確認されます。
(3) 役割分担の不明確さ
複数名を配置しても、誰がどの業種や現場を担当するのか明確にしておかなければ、社内での責任の所在が曖昧になります。結果として、発注者や監督官庁からの信頼を損なう可能性があります。
(4) 採用・定着の難しさ
特に沖縄県那覇市のように建設技術者の人材市場が限られている地域では、資格者の確保自体が難題です。人材獲得には時間と労力が必要で、採用後も待遇や働き方を工夫しなければ定着しにくい現実があります。
4 実務上の工夫とポイント
(1) 社内育成を組み合わせる
外部から有資格者を採用するだけでなく、既存社員を資格取得や実務経験の積み上げによって専任技術者に育成する方法があります。時間はかかりますが、長期的には安定した人材確保につながります。
(2) 人事制度の見直し
複数名体制を維持するには、人件費の負担を吸収できる仕組みが必要です。役職手当や資格手当を設ける、またはプロジェクトごとにインセンティブを設けるなど、モチベーション維持策を導入すると効果的です。
(3) 行政との事前相談
専任技術者の配置は、各都道府県の建設業許可窓口で確認されます。複数名体制を組む際には、事前に相談して、常勤性や役割分担の確認を受けておくことが望ましいです。
(4) 江東区・那覇市特有の事情
- 江東区:大規模工事や都市再開発が進んでおり、元請企業からの下請要請も多いため、複数の業種・技術者を確保している会社は優位に立てます。
- 那覇市:観光施設やインフラ整備の需要はある一方、資格者不足が課題です。地元の若手を育成しつつ、Uターン・Iターン人材の採用も検討する必要があります。
5 まとめ
専任技術者を複数名体制で確保することは、建設業許可を安定的に維持し、受注の幅を広げるために非常に有効な方法です。リスク分散や人材育成、信用力向上といったメリットがある一方で、人件費や常勤性、採用難といった課題も無視できません。
東京都江東区のような都市部では、複数現場や多様な工事に対応するために体制強化が有利に働きますし、沖縄県那覇市では人材確保の難しさを補うために計画的な育成や採用戦略が欠かせません。
会社の規模や経営戦略に応じて、複数名体制を「投資」として位置づけることが、安定的な経営基盤の構築につながるでしょう。
建設業許可申請に精通した行政書士見山事務所までお気軽にご相談下さい。