
相続の場面では、思いがけず「お腹の中に赤ちゃんがいる状態」で手続きを進めなければならないことがあります。
たとえば、お父さんが亡くなり、お母さんのお腹の中にはまだ生まれていない子どもがいる場合です。
このようなとき、胎児は相続人に含まれるのか、遺産分割協議書はいつ作成すればよいのか――。
法律上の扱いや実務の流れを正しく理解しておかないと、後々の手続きでトラブルになることがあります。
この記事では、東京都江東区および沖縄県那覇市にお住まいの方に向けて、
胎児がいる場合の相続に関する基本知識と、遺産分割協議書作成時の注意点を、
実際の手続きの流れに沿ってわかりやすく説明します。
1. 胎児は相続人になれるのか?(民法上の位置づけ)
まず前提として、胎児は法的に「相続人」として扱われるのか、という点を確認しましょう。
民法886条には次のような定めがあります。
胎児は、相続については、すでに生まれたものとみなす。
つまり、胎児も“生まれたものとみなして”相続権を持つのです。
ただし、これは「生まれてきた場合」に限られます。
残念ながら死産となった場合は、胎児には相続権がなかったものとして扱われます。
したがって、胎児がいる場合の相続手続きでは、
「生まれる前に遺産分割をしてしまうと、後で協議をやり直さなければならない」
というリスクが生じます。
これが、遺産分割協議書の作成を“出産後”に行うべき最大の理由です。
2. 遺産分割協議書は赤ちゃんが生まれた後に作成する
相続が発生した段階で胎児がいる場合、まずは「出生を待つ」ことが大切です。
赤ちゃんが生まれる前に遺産分割協議書を作成してしまうと、
もし死産だった場合に、その協議が無効となり、すべてやり直しになる可能性があります。
協議のやり直しは非常に手間がかかります。
たとえば、不動産の相続登記をすでに行っていた場合には、登記のやり直し(抹消登記・再登記)が必要になり、
銀行の手続きや相続税の申告内容も再調整が必要です。
手間と時間、そして余計な費用がかかることになります。
このため、胎児がいる相続では、
「赤ちゃんが無事に生まれてから正式な遺産分割協議書を作成する」
というのが実務上の基本的な流れです。
ただし、生まれるまでの間に財産の管理をどうするかなど、
急ぎの事情がある場合には「仮の協議書」や「遺産の保全措置」を検討することもあります。
その場合でも、最終的には出生後に正式な協議をやり直す必要があります。
3. 赤ちゃんのために「特別代理人」を選任する必要がある
赤ちゃんが生まれた後、正式に相続人として遺産分割協議を行う際には、
「特別代理人」を選任する手続きが必要になります。
なぜなら、赤ちゃん(未成年の子)は自分で意思表示ができません。
通常であれば親が代理人として行動しますが、
今回のケースでは親(特に母親)が他の相続人である場合、
「親と子の利益が対立する関係」にあるため、親が代理人になることはできません。
例えば、
- 母親も相続人であり、赤ちゃんも相続人である
- 遺産を母親が多くもらう内容にする可能性がある
このような場合、母親が赤ちゃんの代理をすると、
「親の都合で子の利益を損なう恐れがある」と判断されます。
このような利益相反を避けるために、家庭裁判所に「特別代理人」の選任を申立てることになります。
4. 特別代理人選任の流れ(江東区・那覇市の場合)
特別代理人の選任は、赤ちゃんが生まれた後、家庭裁判所に申立てを行います。
江東区の方であれば「東京家庭裁判所」、那覇市の方であれば「那覇家庭裁判所」が管轄となります。
申立てに必要な主な書類は次のとおりです。
- 特別代理人選任申立書
- 遺産分割協議書(案)
- 戸籍謄本(被相続人・相続人全員)
- 財産の内容を示す書類(登記簿謄本、預金残高証明書など)
- 特別代理人に就任する方の住民票
ここで特に重要なのが「遺産分割協議書(案)」です。
これは、家庭裁判所が内容を確認するための書類であり、
「親の都合で子どもの取り分が不当に少なくなっていないか」をチェックする目的があります。
裁判所が内容を審査し、問題がなければ特別代理人が選任され、
正式な遺産分割協議を行うことができます。
この手続を経て作成された遺産分割協議書が、最終的に法的効力を持つ正式なものとなります。
5. 赤ちゃんの取り分が法定相続分より少ない場合の注意点
基本的には、赤ちゃんの相続分は「法定相続分」を確保するのが原則です。
しかし、事情によっては法定相続分より少なく分けることもあります。
たとえば、
- 不動産を母親が単独で相続し、赤ちゃんには預貯金を分ける
- 赤ちゃんの将来の養育費に充てる目的で、母親が財産を管理する
などの場合です。
このようなときは、遺産分割協議書に「合理的な理由」を明記することが必須です。
理由の記載がないと、裁判所が「子の利益を害している」と判断し、特別代理人の選任が認められないおそれがあります。
理由説明の文例
「なお、本遺産分割の趣旨は、未成年者の子の養育費や生活費に充てるため、後記不動産を売却することを目的とし、便宜的に母○○○○名義へ登記名義を移すものである。」
このように、
「子の利益を守るための合理的理由がある」ことを明確にするのがポイントです。
特別代理人がその内容を確認し、納得した上で遺産分割協議に参加することで、
最終的に裁判所の認可が下り、協議が成立します。
6. 特別代理人とはどんな人がなるのか?
特別代理人は、親族や第三者の中から選ばれることが多いです。
家庭裁判所が認める人物であれば、親族(祖父母や叔父叔母など)でも可能ですし、
場合によっては弁護士などの専門家が選ばれることもあります。
特別代理人の役割は、あくまで赤ちゃんの利益を守ることです。
したがって、協議の内容を理解し、赤ちゃんにとって不利にならないよう慎重に判断することが求められます。
もし赤ちゃんの取り分が法定相続分より少ない場合には、
その理由が本当に合理的かどうか、裁判所が厳しく確認します。
7. 胎児がいる相続の実務的な進め方
胎児がいる相続の場合、一般的な流れは以下の通りです。
- 相続開始(被相続人の死亡)
- 胎児がいることを確認(母親の妊娠中)
- 相続財産の調査・整理を進めておく(出生後にスムーズに協議できるよう準備)
- 赤ちゃんが生まれるのを待つ
- 出生後、戸籍に記載されたことを確認
- 家庭裁判所に特別代理人選任の申立て
- 裁判所の許可後、正式な遺産分割協議書を作成・署名押印
- 不動産登記・預貯金名義変更・相続税申告などの実施
特に江東区や那覇市では、家庭裁判所の手続きや不動産登記の窓口がそれぞれ異なります。
地域の法務局や金融機関に問い合わせながら、スケジュールを調整することが大切です。
8. まとめ 胎児がいる相続では「時期」と「手続」を慎重に
胎児がいる状態で相続が発生した場合、手続きは通常よりも慎重に進める必要があります。
大切なのは、次の3つのポイントです。
- 遺産分割協議書は赤ちゃんが生まれた後に作成すること
(死産の場合にやり直しを防ぐため) - 赤ちゃんのために特別代理人を選任すること
(親子間での利益相反を避けるため) - 赤ちゃんの取り分が法定相続分より少ない場合は合理的な理由を明記すること
胎児が関わる相続は、法律上も実務上も注意点が多く、
誤った判断をすると後々の名義変更や税務申告に影響します。
江東区では都市型の不動産相続が多く、那覇市では家族構成が広域に及ぶケースも多いため、
それぞれの地域事情に応じた慎重な進行が求められます。
無事に生まれてくる命を大切にしながら、家族全員が安心できる形で手続きを進めること――
それが、胎児がいる場合の相続で最も重要な考え方といえます。
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